認知症としてよく語られる内容もあるし、母と娘だからという関係もあるし、色々と考えさせられることも多い。それに加えて「脳科学者」としての分析や説明も興味深い。
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この本にはとても多くのことが語られている。認知症になると「その人は“その人"でなくなるのか?」、認知症になっても残る「その人らしさ」とは、というのが主題の一つである。
娘として、認知症になってしまった母と、家族としてどう付き合っていけばいいのかというテーマもある。
また、脳科学者として目の前に日々展開される母の行動や変化をどう理解すればいいのか、というのもこの本を貫く一つの「姿勢」である。
書いてあることが多岐にわたり、内容も結構深かったりするので、私の理解の及ばない部分も多い。なので、ここでは私自身興味を持ったことをいくつか書いてみようと思う。
とくに、「海馬」とか「後頭頂皮質」の専門用語は忘れて…(^^;)。
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「何かができる/できない」ことと「その人らしさ」とは違う。「治す」ことはできなくても「やれる」ことはあるのではということで、筆者がやったことが二つ。
一つは「デフォルト・モード・ネットワーク」を活性化させること。
「デフォルト・モード・ネットワーク」とは、休んでいる時やリラックスしている時に活動し、主に記憶の整理を行う脳の働き。記憶どうしを結びつけたり、重要かどうか判断したり、保留にしたり…する。
これがうまく働かないと起こっていることの意味がつかめなくなったりする。
で、筆者が考えた対策としては「ぼうっと散歩する」こと。これにより、上の「ネットワーク」が活性化されるそうだ。
この方法は、認知症の母が夫(筆者の父)と一緒に散歩することで、自然なコミュニケーションもとれるようになるという、もう一つの効果も生み出したようだ。
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もう一つの方法は、一緒に料理して手順などをアドバイスすること。
これは、一人ではできなくなった料理でも、他の人が手順などの「記憶」を補えば、つまり何のための作業か等をときどき助言することで、出来るようになるのではないか、という筆者の仮説に基づいた試みである。
結果的には、うまく行くこともあるし、うまく機能しないこともあった。失敗した場合の原因としては、補助者(筆者)が「助言」をしすぎて、本人の「主体性の感覚」(後述)が薄れたということにあったようだ。
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認知症の人で「目の前にあるのに見えない」という現象(症状)が起きることがあるが、これは「感覚情報のオーバフロー」による場合もある。
これは「意識」(できるもの)に対して「感覚情報」は膨大すぎて、すべてを認識することができなくなるという現象で、脳が重要なものを見落とさないために発達させた「注意」という(重要なものに意識を振り向ける)メカニズムによるもの。
見えていても脳が注意を払わない(情報として取らない)ものがあるということ。
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人間の幸福感や心の安定にとって、「今これをやっているのは私」という感覚、つまり「主体性の感覚」がとても重要である。
「自分に選択の余地があって責任を持って生活できること」が、幸せを感じ、活動的になる秘訣なのだ。
認知症の人にも「主体性の感覚」が必要なので、施設の職員が「本人の希望通り何でもやってあげる」ことはそれを奪うことに繋がってしまう。
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人間がそこに今あるものに行動を誘発されることを「アフォーダンス」という。通常の人にも起きるが、アルツハイマーの人は記憶が維持されにくいので、今、目に止まったものにより動かされやすい。
そして、その前にやろうとしていたことを忘れる、つまり一連の意味ある流れが途絶えてしまうため、その行動を周りから見ていると、変な行動に見えることもある。
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関連する 3つの重要な機能がある。「感覚統合」「空間認知」「注意」の3つ。
「感覚統合」とは、視覚情報、聴覚情報、体性感覚情報などを、脳の中で「統合」すること。これにより、それぞれの感覚(体験)を関連付けて全体の意味を汲み取ることができるようになる。
「空間認知」とは、全体の空間の中で自分のいる位置を認識する機能。
「注意」とは、自分の周りに膨大に存在するモノや情報のどれか一つに意識を向ける能力である。この 3つはお互いに関連して、人間が環境を認識し、その中で行動することを助けている。
この機能の一つ以上が損傷すると、自分がどこにいて、いろんな感覚情報をどう理解していいのか分からず、周りにあるもののどれに注意を向ければいいのかも分からなくなる。「どうしてよいのか分からない」という状況になってしまう。
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実は、普段思っているより、自分と他者との境界は曖昧である。
例えば「こっくりさん」のように、実は自分が石を動かしているのに「自分がやっている」という感覚が抜け落ちることがある。同様のことは日常の中で起きうる。
また、他人の気持ちを理解する仕組みとして「ミラーニューロン」がある。
「ミラーニューロン」とは、他人の行動を見て、あたかも自分がそのように行動しているかのような反応をする神経細胞。
また、人間には「共感」する脳というものがあり、親しい人が痛みを与えられていると、自分の脳の中でも痛みを感じたりするような働きをする。
人間は、自分一人で生きている・活動しているわけではなく、こういった脳の仕組みにより、お互いに影響し合いながら生きていると言ってよい。
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その他、「感情こそ知性である」「感情が理性を生み出している」「感情が作る『その人らしさ』」といったあたりにはとても興味があって面白いと思うのだが、疲れたので割愛する。コレ(↓)とも関連した話だ。
《9つの脳力を活性化しよう》
あと、蜂は種の保存のために、餌のある場所が100%分かっているときにでも、20%の蜂は餌のある場所(正解)以外を選んでいる、という話は興味深いと思った。
人間の行動にも100%の正解というものはなく、周りから見て「異常」とか「変」に思える行動にも、何らかの意味があるかも知れない…?
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読んだ本はコレ(↓)。
『脳科学者の母が、認知症になる』
恩蔵絢子 著
河出書房新社 (2018/10/17)
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