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愛の断章
Ⅰ
大きな海の
深い霧につつまれた光の反映に
やさしい母の顔がある
その瞳は死の淵のように深く
あたたかく
その口元には意味のないほほえみ…
Ⅱ
いちめんのきいろ
なのはなばたけ
たんぼのあぜみちをふたりのこども
ふたつの手は
いつかとおざかっていった
Ⅲ
たぶん秋の青空であろう
その田舎道を
白い少女がすれちがう
その瞳はいまも
あこがれをたたえている
Ⅳ
君は夢の中にしかいなかった
Ⅴ
遠い異国の
その人はそよ風
春のかぐわしい甘いそよかぜ
ボクのまわりで
ほがらかに笑い歌い
ボクによびかけながら
いつもきまって
ボクをおいて
ひとり遠い異国の村へ
とび去ってしまう
君は遠いそよ風
Ⅵ
ぼくはふるさとをもたない
君はぼくのふるさとだ
だのに君は
かたくとざされた扉
見むきもしない
異郷の街
ただ冷たい風が
旅人をかりたて
砂をふきあげる
Ⅶ
髪の毛の長い嘆息
清楚な瞳のあこがれ
淡いくちびるの憂鬱
そして
一つの想い
Ⅷ
暗黒! … 闇だけが光る
はじめの想いさえ
わすれてしまった
Ⅸ
せんちめんたるの遠いまぼろし
あわく哀しい生命のまどろみ
ひとつの想い
それは母なる海への
はるかな…
はるかな のすたるぢあである
……………
1970.9.28
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